2017年12月01日
気象観測機器
最近弊社でもデービス社のウェザーステーションを使って APRS ネットワークに気象データをアップロードする方法についてのお問い合わせを多く受けるようになりました。弊社は元々無線機メーカーですので、弊社製品のユーザーの方の中には自宅に無線通信の為の大きなタワー・アンテナを建てられている方もいらっしゃるようで、強風の際や台風が来る時などにタワーの上げ下ろしをするため、風速計が欲しいということで、デービス社のウェザーステーションをお求めになる方が増えているようです。そうしたアマチュア無線家の中には、せっかくアマチュア無線の資格も持っているし、APRS 対応の無線機もあるので気象データのAPRSネットワークへのアップロードもやってみたいと思われる方も多く、弊社へのお問い合わせも増えています。そこで今回はデービス社のウェザーステーションを利用してAPRSネットワークに気象データをアップロードする方法をご説明します。
APRSは”Automatic Packet Reporting System”の略称で、直訳すると「自動パケット通知システム」ということになります。これはアマチュア無線のAX.25パケット通信を使って北緯何度、東経何度という位置情報をベースに、様々な情報を送受信し合うグローバルでリアルタイムなパケット通信システムです。APRS運用局が送受している情報としては、移動局や固定局の位置と情報、気象情報、オブジェクト情報、メッセージ交換、電子メールなどがあります。位置情報と紐づいていますので、APRSで気象情報を送れば地図上でその地点の現在の気象状況が表示されるわけです。気象観測装置は一ヶ所に固定して使用されることが殆どだと思いますので、一度設定すればその都度GPSで位置情報を拾ってくる必要は無いのですが、海外ではワンボックス・カーにデービス社のVantage VueやVantage Pro2を積んで移動しながら行った先々の気象データを送っている例を見たことがあります。そんな使い方もAPRSを使うと可能になるわけですね。
APRSネットワークにウェザーステーションで観測した気象情報を送る最も簡単で確実な方法はAPRS対応の無線機を使うことです。無線機とTNCモデム、GPS受信機を組み合わせて使うという方法もありますが、GPSを内蔵したAPRS対応無線機を使うのが最も手軽で簡単にアップロードできると思います。APRS対応無線機には、JVCケンウッドのTM-D710/S、TH-D74、TH-D72、八重洲無線のFTM350A/AH、FTM400D/DHなどがありますが、無線機側が気象機器データの受信に対応していないといけませんので、ここではJVCケンウッド社のTH-D72を使用した例をご紹介します。TH-D72は、“SiRFstarⅢ™”チップセットを搭載した高性能GPSユニットを内蔵し、APRS/NAVITRAに対応したデュアルバンド・ハンディ・トランシーバーです。APRS開発者であるBob Bruninga(WB4APR) 氏の協力により、APRSシステムに対応したプログラムを開発し、これを本体に内蔵。パソコンを必要とせず、TH-D72のみで手軽なAPRS運用を可能にしました。
デービス社ウェザーステーションのデータをTH-D72に送るためには、ウェザーステーションのコンソールにウェザーリンク・シリアル(6510SER)が取り付けられていることが必要です。またウェザーリンク・シリアルに付属の9ピン・ケーブルからTH-D72のCOMポートにデータを送るための変換ケーブルが必要ですが、これは今回は自作ケーブルを用いています。秋葉原などのパーツ・ショップで入手可能な9ピン・コネクタと2.5φの3極プラグ、ケーブルを使って数百円で自作することが可能です。またJVCケンウッド社でもサービス・パーツとして2.5φ3極プラグ付ケーブル、ライン・フィルターの用意があるそうです。配線については下記の図を参照してください。
このケーブルでデータロガーとTH-D72を接続した後、コンソール側の設定としては、[DONE]キーを押しながら[-]キーを押してセットアップ・モードに入り、SERIAL BAUD RATE(シリアル・ボー・レート)設定で9600を選びます。(APRSのシリアル転送レートは9600bpsか1200bpsです)コンソールとTH-D72との間の通信がうまくいくと、上の写真のようにモニタ画面に雨量、気温、風向、風速、気圧、湿度のデータが表示されます。あとは無線機の取扱説明書に従ってAPRSの設定を行います。転送レートを9600bpsに設定した場合の送信周波数は上の写真のように144.640MHzになります。自局アイコン(シンボル)の設定も[WX]にしておくことをお忘れなく。
実はWeatherLinkソフトウェアにはAPRSネットワークに気象データをアップロードする機能が備わっています。この機能を利用すると無線機が無くてもAPRSネットワーク上に気象データを公開することが出来ます。上の地図はサンフランシスコ周辺のGoogle Maps APRSを表示したものですが、非常に多くの気象局(青い円の中にWXとある局)が存在していることが分かります。アメリカではCWOP(Citizen Weather Obseerver Program=市民気象観測プログラム)というプログラムがあり、一般市民がローカルな気象データを数多く公開しています。APRSは元々アマチュア無線のパケット通信規格ですが、このCWOPに参加することにより、CWOPのアカウントを開設し、アマチュア無線局免許を持っていなくてもAPRSネットワークに気象データを公開することが可能になります。このGoogle Maps APRS上ではCWで始まるアカウント等がCWOPに参加している気象局です。勿論KやWで始まるコールサインで登録している局も多いのですが、それ以外のCWOP局の多さは、さすが広大なアメリカ合衆国ならではだと思います。
それではWeatherLinkソフトウェアからAPRSネットワークに気象データを送信するための設定について説明します。CWOPで使用されるAPRSWXNETは、Vantage Vue、Vantage Pro、Vantage Pro2ウェザーステーションで使用される設定(小数点以下1桁)よりも、緯度と経度の座標が高い解像度(秒単位)が必要です。予めウェザーステーションを設置してある場所の正確な緯度経度の位置情報をGoogle Mapなどを使用して取得しておいて下さい。
APRSセットアップウィンドウにアクセスするには、まずセットアップメニューからインターネット設定(Internet Setting)を選択します。インターネット設定(Internet Setting)ウィンドウのデータアップロードの概要(Data Upload Summery)セクションの[Configure]ボタンをクリックし、APRSに使用するデータアップロードプロファイルの設定を選択します。アップロードするレポートファイル(Report Files to Upload)テキストボックスの下のレポートファイルの選択(Select Report Files)ボタンをクリックします。 データ・アップロード・プロファイルへの気象情報のアップロード(Upload Weather Reports for Data Upload Profile)ダイアログボックスが表示されますので、APRS Weather Report選択ボックスで[Configure]をクリックすると上図一番右のダイアログボックスが表示されます。ここであなたのCWOP識別番号またはアマチュア無線のコールサインを入力してください。APRSで気象局を設定する場合SSIDスタンダードとしてコールサインの後に-13を付けておくと運用形態が分かってよいでしょう。次にAPRS ISサーバーの設定を確認します。ここはデフォルトで入力されている情報そのままで問題ないかと思います。APRSでは、通常コンソールで使用するよりも正確な位置情報が必要ですので、その下のLocationは分、秒単位で緯度経度の座標を入力してください。[OK]をクリックして終了し、このダイアログボックスで行った変更を保存します。これでAPRSのセットアップは終了です。”Data Upload Profile”ウインドウで”Report Files to Upload”が“APRS Report”になっていることをご確認ください。また右上の”Download Weather Station First”にチェックを入れておいてください。このレポートは、ストリップチャート・ウィンドウを除くリアルタイム・ウィンドウが開いている場合にアップロードされます。
弊社でも屋上に設置したVantage Vueの観測データをAPRSネットワークにアップロードしていますので、Google Maps APRSなどで確認してみて下さい。またAPRSに関する参考図書としてはJF1AJE松澤荘八さんの「APRSパーフェクト・マニュアル」(CQ出版社刊・アマチュア無線運用シリーズ)がお薦めです。